2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『支えあう錯覚』 懐かしいなぁと、崩れた家を眺めている。 続きを読む あの日、ここにたくさんの人がぎゅう詰めになって息を押し殺していた。 魔神が出たんだ。 黄色くて、どろどろして、それでも生き物だった。 車の芳香剤に似た体臭が強くて、いまでも自分は車に乗ることができない。 あの、目によく似た空洞を思い出してしまうから。 あれは、3人ほどが殺された後だったから。 家に逃げ込んだみんなはただひたすら魔神が去ることを願い、次の犠牲が自分じゃ無いことを願い、互いに励まし合って日の出の時間を越した。 魔神がいなくなる条件を測っていたが、結局、自分たちには分からなかった。 雨の降った夜に魔神は消え去ったが、同じ雨空は何回も繰り返していた。 懐かしさに駆られて崩れた家を訪れた。 あの時支えあった自分たちに確かに絆ができたと夢を見ていた。 こうして家が壊されても、それを惜しむ人は現れず、自分だけがあの思い出を大切にしていたんだと理解した。 あの場にいた誰の名前も覚えていないのにね。 可笑しいのは自分の方だ。 了畳む SS edit
『支えあう錯覚』
懐かしいなぁと、崩れた家を眺めている。
あの日、ここにたくさんの人がぎゅう詰めになって息を押し殺していた。
魔神が出たんだ。
黄色くて、どろどろして、それでも生き物だった。
車の芳香剤に似た体臭が強くて、いまでも自分は車に乗ることができない。
あの、目によく似た空洞を思い出してしまうから。
あれは、3人ほどが殺された後だったから。
家に逃げ込んだみんなはただひたすら魔神が去ることを願い、次の犠牲が自分じゃ無いことを願い、互いに励まし合って日の出の時間を越した。
魔神がいなくなる条件を測っていたが、結局、自分たちには分からなかった。
雨の降った夜に魔神は消え去ったが、同じ雨空は何回も繰り返していた。
懐かしさに駆られて崩れた家を訪れた。
あの時支えあった自分たちに確かに絆ができたと夢を見ていた。
こうして家が壊されても、それを惜しむ人は現れず、自分だけがあの思い出を大切にしていたんだと理解した。
あの場にいた誰の名前も覚えていないのにね。
可笑しいのは自分の方だ。
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