(シガヤ視点)
「バイト募集用の写真撮影をせねばならん」とヤマヅ副館長が言うので。
「求人サイトに出してるんですねここ」なんて聞いちゃったよ。
副館長は大きく1回頷いた。
え~出してるんだ~求人サイトに、この仕事!?
「前からですか?」
「前からだ」
「では前の写真を流用しては?」
「もう辞めた人が写っている」
「ああ……」
納得した。
というわけで今ヒマしてる人員が空中庭園に出ている。
ここは来館客が立ち入れない場所なので、写真撮影や実験や運動にちょうどいいみたい。
「ここに芝生あるじゃねぇか」
ハバキがカメラマンを請け負った兵司サンに注文を付けてる。
「皆がこの上並んで、兵司はそこの梯子からちょっと上から撮って、皆カメラ見上げる感じにしたら良くねぇか」
「ありますねそういう写真」
オレも覚えある、そういう写真。
アットホームな職場ですってか!
ハバキはきっと、そういう写真ばっかり写って来たんだろな。
てかそこまでアットホームな職場でもないだろ、ここ。
視界の端にピンク髪が写り込んだ。
スグリが木陰の下でちょこんと蹲っている。
「スグリちゃんは映んないの?」
「多数決で今、映らない方が良いよ派が多くってねぇ」
「前村主たちからも意見とるんだねぇ……」
この子が写っていると『髪色自由な職場』と捉えて貰えそうなんだけどな。
「む」
位置決めの指標にされていたイチトが声を漏らした。
「俺も撮影はNGかもしれん」
「皇都警察かぁ。そういやオレも、そもそも部外者だし。出向組は抜かして撮った方がいいかもネ」
「えー、外見の多様性が減るじゃないですか」
総務のお姉さんが文句をつけてきた。
「白衣の人がいなくなっちゃう」
「鑑定院長ひっぱってくれば?」
「内線に出なかったし、鑑定中じゃないか」
わやわやしてる間に、イチトは隅に移動してどこかに電話をはじめた。
聞き耳を立てていると「伊毒祈係長」と誰かの名前を呼んでいる。
「バイト募集用の写真撮影に私も参加して大丈夫でしょうか」
『良いワケあるか馬鹿野郎ッ』
……オレもそう思うよ!
「シガさん、盗み聞きはよくない」
通話を終えたイチトくんが耳打ちをしてきた。
並んでいる皆をよそに、日陰の壁際にふたり。
「通話相手の声が大きすぎんだって。なに、上司?」
「ナイショだ」
情報漏洩でも気にしているんだろう。
「じゃあ部下なのかな?」
「部下に許可を取る必要が?」
「ンフフ」
「オイこらそこふたり!」
日陰でコソコソ話をしてたらハバキにドヤされた。
「写りたくねぇからってサボってんじゃねぇ!」
「えー、オレらすることないっしょ」
「じゃあレフ板でも持っとけ!」
「なんか詳しいねェハバキくん……レフ板無いし!」
結局、兵司サンとイチトが撮影係を代わって、ハバキプロデュースの「アットホームな職場」風写真が撮れた。
撮影のためにスマホを覗き込んでるオレたちの写真は、スグリが後で共有してくれた。
おわり