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第41話「ゴースト夏祭りの怪」

【モルグ市魔神博物館】

モルグ市魔神博物館
日本に"魔神"と呼ばれる怪異が出現するようになり幾年。惑羽イチトと真道シガヤは某博物館の出向職員となる。『回収員』として魔神を殺し、死体を手に入れることがふたりの仕事。展示物の確保のため、そして平和な日常のため、ふたりのまどうは魔神を殺す!


【本編】

小説家になろう / カクヨム / Nolaノベル / NOVELDAYS
番外編:『難しい問題』を解けば出られる部屋

【etc】

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#盛愚市民こばなし
『遺品、縊首者の』

人間は一列に並べられて順番待ちをしていた。
成果を分け合うみたいに、ソレらは端から順番に人を吟味していた。

私は毛布に震えて横たわり、必死に頭が痛いフリをしていた。
そうすればサボるように寝ていることを許されると願っていた。
頭痛なんですと顔をせいいっぱい歪ませて、何も考えられないんです。
見逃してください。見逃してください。

腰掛ける人間たちのあいだに私を見つけたソレは、あら、と人の良さそうな声を上げた。
かつての担任の先生を思い出させる声。
先生元気かな。私は死にそうです。魔神に殺される順番待ちをしています。

「次はちゃんと参加してね!」

”労り”と”落胆”を感じる。
私は聞いたことがある、この声を。
罪悪感と責務から逃れられた、安堵を与えてくれる声。

先生、元気かな。私は助かりそうです。

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#盛愚市民こばなし
『手放せないもの』

母との思い出の品だから手放したくない。

お正月から少し過ぎた、4日か5日だったか……。
近場の大きな神社に初詣に行った。
今年は受験だから頑張らないとねぇって。
普段はあんまりそういうのに頼らない母がお守りを買ってくれた。
ちっぽけだけどかけがえのない品物だ。

そう、形見だから手放したくない。
母は魔神侵攻で死んだ。
自分の受験は失敗した。
お守りはどす黒く変色して、何のご利益が与えられるか分からないシロモノになっていたとしても。



盛愚市魔神博物館の副館長は、話を聞いて唸り声をあげた。
補佐のひとりが「お守りは有効期限が1年だって教えてあげれば手放すんじゃないですか」と耳打ちをしたが、副館長は"正解"をまだ出せない。

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#盛愚市民こばなし
『水平線は遠く』

あの水平線が具体的にはどういった海の名前を持つのかを自分は知らない。
ただ、切れ目のようで尊ぶべき世界の端だと認識する。

眺めることが好きだった。
そこへ向かおうとは思わなかった。
しかし、ある時から、水平線が乱れるようになった。

魔神が出るらしい、と近所の人が耳打ちをする。
魔神、ああ、それはあの美しい世界において邪魔だなぁとしか思えない。

船が転覆したという話を聞いた。
ああ、やはり害悪だ。
はやく魔神がいなくなればいいのに。

国が燃えたという話を聞いた。
ああ、なんと恐ろしい。
はやく魔神がいなくなればいいのに。

後日、父がうちに帰ってきた。
仕事で乗っていた船が転覆し、うちに帰ることが許されたと。
なぜなら船が向かうべき目的地が、騒ぎの間に燃えて壊れてしまったと。
給金は無いがこれでしばらく食えるだろうと父は壊れた銃を翳して笑った。
生きていくには十分だった。

あれから自分は水平線に向かって祈っている。
ありがとう、魔神の存在は祝福だった。

水平線の乱れは、なにものかの歓喜の舞に思えて。
今では自分と父の穏やかな暮らしの象徴になっている。

あの水平線が具体的にはどういった海の名前を持つのかを自分は知らない。
そこで何人が死んでいるかも。
世界の端の命は遠く、認識ができないので、しようがない。

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#盛愚市民こばなし
『支えあう錯覚』

懐かしいなぁと、崩れた家を眺めている。

あの日、ここにたくさんの人がぎゅう詰めになって息を押し殺していた。
魔神が出たんだ。
黄色くて、どろどろして、それでも生き物だった。
車の芳香剤に似た体臭が強くて、いまでも自分は車に乗ることができない。
あの、目によく似た空洞を思い出してしまうから。

あれは、3人ほどが殺された後だったから。
家に逃げ込んだみんなはただひたすら魔神が去ることを願い、次の犠牲が自分じゃ無いことを願い、互いに励まし合って日の出の時間を越した。

魔神がいなくなる条件を測っていたが、結局、自分たちには分からなかった。
雨の降った夜に魔神は消え去ったが、同じ雨空は何回も繰り返していた。

懐かしさに駆られて崩れた家を訪れた。

あの時支えあった自分たちに確かに絆ができたと夢を見ていた。
こうして家が壊されても、それを惜しむ人は現れず、自分だけがあの思い出を大切にしていたんだと理解した。

あの場にいた誰の名前も覚えていないのにね。
可笑しいのは自分の方だ。

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#盛愚市民こばなし
『確光レンズ』

それは粗悪品が出回っているため、世間では子供騙し、うさんくさいもの、気休め、旅のお土産程度にしか思われていない。

それもそのはずで、粗悪品をわざと異界商人/ワタリ/あるいはその方が都合の良い人がばらまいたからだ。

普通の人間にはレンズの質を見極めることができない。
子供だましでも、うさんくさくても、気休めでも、お土産でも。
このレンズを渡すことが「あなたを心配している」という気遣いになる。
それだけで市民にとっては十分だ。
正規品は郭公の意匠が付いているが、コピー品は別の鳥。

「ねぇそのカバンについてるやつ」
「ああこれ? 前に妹がさ、修学旅行のお土産で」
「いやソレが一瞬なんか赤色になっ」

運良く色が”見えた”として、それが何になろうか。

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