2025/12/23 #盛愚市民こばなし #ヤマヅ 『不在の証明』 一拝・祈念・二拝・四拍手・一拝。 続きを読む ……その途中で、皺だらけの手が不座見ヤマヅを制止した。 「やめなさい」 諭すような声、それはとても悲しそうなものであった。 ”父親”に己の行動を諌められたことはあまり記憶になく。 だからこその『強い牽制』が感じ取られる。 とっておきの切り札は、とっておかないと意味がない。 あるいはバレてはいけないと、”館長”は知っているのかもしれない。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし #ハバキ 『十字路に拾う神あり』 「おーい枕木!」 「松尾さん!?」 続きを読む 自動販売機の隣に立ってタバコをふかしていたのは野球部の先輩だ。 ポジションはキャッチャー。 前に会った時より、もっと太った気がするとハバキは考えたが口には出さない。 「今ヒマか? うちの会社来いよ」 「ダイタンなお誘いっすねぇ。ヒマしてるように見えました? あいにくオレも仕事中なもんで」 「ヒマに見えたんだけどなぁ。うち、そこらの会社よりいい給料出すぜ?」 「『博物館』よりお金、出ます?」 ハバキのなんてことない問いに、松尾は困った顔を浮かべてタバコを指先で弄びだす。 「あー……ちょっとそれは厳しいわ。オマエ、なんでハクブツカンなんかに行ったんだよ。金か? 金だよな。うん……」 「松尾さんの会社でオレ何ができます?」 「配送とか」 「今似たようなことしてるんで」 「そっか。枕木、バケモノに襲われる前に転職しろよ? 死んでからじゃ、うちは雇ってやれないぜ」 「あっはは、幽霊になって顔出ししますわ」 「幽霊か……」 「松尾さんオバケ苦手でしたっけ」 「なめんじゃねぇーわ。チビ連れてどんだけお化け屋敷に通ったと思ってんだよ」 一瞬、ハバキの脳内に、モルグ市総合病院の暗い廊下がよぎって。 「……それじゃ、松尾さんオタッシャで」 「体こわすなよー」 松尾さんには分かんないよなと、その足でハバキは病室のバケモノに会いに行く。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし #イチト 『採集』 耳がふたつ。 続きを読む舌はひとつ。 どちらにも、沢山のピアスが輝いている。 「なんてものを」 父は顔面蒼白、弟から震える手でそれを受け取る。 「なんてものを、自分の弟に持たせるんだ?」 声は揺れる。裏返る。 分かっている。 これは本物の、人の身体の一部。 惑羽イチトは、何も返答ができない。 彼の背負うカバンには、ピアスが埋め込まれた肩と、腹部の一部が入っている。 これだけしか持って帰って来られなかった。 「ピアス」 混乱で渦巻く頭では、ろくな言葉が出てこない。 「つけてて良かった」 姉の行為を肯定する。 「帰ってこられたから」 付けている箇所だけだ。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし #シガヤ 『真道報告書』 「詳細に書きすぎていて、逆に疑う者もいる」 続きを読む 「いやぁ末恐ろしいガキだ」 「何を参考にしたんだって?」 「あれに似てるな。山岳遭難の」 「ああ」 「もう退院したんだっけ」 「あれは病院で書いたのか?」 「ノートパソコンの持ち込みまでして」 「……真道志願夜って」 「確か3年前の」 「6年前じゃなかったか?」 「どんな気持ちであんなの書いたんだろうなぁ」 「気持ち悪い」 「吐くならトイレでな」 「行ってくる」 「行ってらっしゃい俺は先に出とくから……聞いちゃいないか」 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『魔神のややこ』 自分の姉は、異界に落ちてからおかしくなったのです。 続きを読む おかしくなった箇所は数百にのぼりますが、とりわけわかりやすい箇所をあげるなら、2点でしょうか。おなかと、あたまです。 姉は魔神とまぐわい子を宿したようです。 今年で妊娠3年目。 おなかはずっとまるいまま。 姉はこのことで、価値観が変わりました。 魔神信奉者には成り果てた。 自分が特別な存在だって、言ってはばからない。 いっそ殺してあげられたら、と母は泣いていました。 殺すって、あいつごとか?と父は聞くまでもないことを尋ねてきます。 募るふたりの危機感を自分は見逃し、とうとう3年。 「その子の父はどこにいる?」 「今もまだ異界にいるの」 自分の手にはカンニングペーパーがありました。 これには有識者の協力で得た、強大な呪文が書かれています。 これまで姉と話すことは避けていました。 話したらこちらが狂いそうだったから。 「その子の異母きょうだいがどれだけ居るか聞いている?」 私が告げれば、信奉者(シンパ)の目の色が、分かりやすく変わります。 「その子の父親、虫ケラだって孕ませるよ」 副読本、魔神報告書。 十時型魔神の醜悪な物語。 そのひとつに姉が含まれます。 ページは千以上にわたります。 甚大な数であり、微細な被害です。 「ソレの母たる姉さんは、何番目の夫人にあたるの?」 姉さん、今日日、魔神に種付けされる人間の雌の数を、ご理解しておりますか? カンニングペーパーが濡れて読めなくなりました。 自分の涙と姉の血。 悲しいことに効果は絶大。 ところで誰かの支援がないと自分は、姉をあたまがわるいままにしていたのでしょう。 生まれない子を腹に留める姉のように、ゆっくりと表面を撫で続け。 誰かに手を伸ばさないとそこで立ち止まりっぱなし。 つまるところ、似たものきょうだいであったというわけです。 了畳む SS edit
『不在の証明』
一拝・祈念・二拝・四拍手・一拝。
……その途中で、皺だらけの手が不座見ヤマヅを制止した。
「やめなさい」
諭すような声、それはとても悲しそうなものであった。
”父親”に己の行動を諌められたことはあまり記憶になく。
だからこその『強い牽制』が感じ取られる。
とっておきの切り札は、とっておかないと意味がない。
あるいはバレてはいけないと、”館長”は知っているのかもしれない。
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