2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『不幸は多弾』 愛する家族が死にました。 続きを読む我が家に『ドアー』があったそうです。 帰宅している間に、ドアーから出現した魔神に殺されました。 父と、母と、弟が死にました。 魔神が死にました。 近所の人が殺してくれたからです。 父と、母と、弟の遺体は葬儀場に運ばれましたが、 魔神の死体はそのままです。 私は殺されかけました。 母の運命の相手?を名乗る男に襲われそうになりました。 魔神の死体がそのままだったので、男はそれに足を引っ掛けて転びました。 その拍子に持っていた包丁が男の腹に刺さりました。 男は母の名をずっと呼んでいました。 なんだか母が気持ち悪く思えてきました。 死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。 弟は私と半分しか血が繋がっていないことがわかりました。 母の運命の相手?との子だったようです。 弟の笑顔が私とまったく違った理由がようやくわかりました。 なんだか弟が気持ち悪く思えてきました。 死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。 魔神の死体はそのままです。 片付ける気力がなくて、私はずっとホテルに泊まっています。 今日、地主さんが怖い人たちを連れて部屋を訪れてきました。 家を手放すつもりならあの死体をどうにかしろと言ってきました。 近所の人がお金を請求しに来ました。 魔神の殺害料だそうです。 父の会社の人がお金を請求しに来ました。 父が会社のお金を着服していたそうです。 なんだか父が気持ち悪く思えてきました。 死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。 霊媒師さんに声をかけられました。 私の住んでいた家は呪われた土地だそうです。 お金を払えば不幸を退けてくれるそうですが、 魔神の死体は消してはくれないそうなので断りました。 私は嫌になりました。 受験に落ちました。 あれから家にも学校にも行っていないので当たり前でした。 私は嫌になりました。 お金が無くなりました。 私は嫌になりました。 父方の祖父母が、私は嫌になりました。 声をかけたお巡りさんが、私は嫌になりました。 死体を貪っていたカラスが、私は嫌になりました。 私を押し倒した男が、私は嫌になりました。 小学校の時に私を無視した子が、私は嫌になりました。 崖の下に居た魔神が、私は嫌になりました。 ドラッグストアの店員が、私は嫌になりました。 担任の先生が、私は嫌になりました。 市役所の職員が、私は嫌になりました。 青い目の魔神が、私は嫌になりました。 魔神被害者にインタビューする研究者が、私は嫌になりました。 私は嫌になりました。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『遺品、縊首者の』 人間は一列に並べられて順番待ちをしていた。 続きを読む成果を分け合うみたいに、ソレらは端から順番に人を吟味していた。 私は毛布に震えて横たわり、必死に頭が痛いフリをしていた。 そうすればサボるように寝ていることを許されると願っていた。 頭痛なんですと顔をせいいっぱい歪ませて、何も考えられないんです。 見逃してください。見逃してください。 腰掛ける人間たちのあいだに私を見つけたソレは、あら、と人の良さそうな声を上げた。 かつての担任の先生を思い出させる声。 先生元気かな。私は死にそうです。魔神に殺される順番待ちをしています。 「次はちゃんと参加してね!」 ”労り”と”落胆”を感じる。 私は聞いたことがある、この声を。 罪悪感と責務から逃れられた、安堵を与えてくれる声。 先生、元気かな。私は助かりそうです。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『手放せないもの』 母との思い出の品だから手放したくない。 続きを読む お正月から少し過ぎた、4日か5日だったか……。 近場の大きな神社に初詣に行った。 今年は受験だから頑張らないとねぇって。 普段はあんまりそういうのに頼らない母がお守りを買ってくれた。 ちっぽけだけどかけがえのない品物だ。 そう、形見だから手放したくない。 母は魔神侵攻で死んだ。 自分の受験は失敗した。 お守りはどす黒く変色して、何のご利益が与えられるか分からないシロモノになっていたとしても。 * 盛愚市魔神博物館の副館長は、話を聞いて唸り声をあげた。 補佐のひとりが「お守りは有効期限が1年だって教えてあげれば手放すんじゃないですか」と耳打ちをしたが、副館長は"正解"をまだ出せない。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『水平線は遠く』 あの水平線が具体的にはどういった海の名前を持つのかを自分は知らない。 続きを読むただ、切れ目のようで尊ぶべき世界の端だと認識する。 眺めることが好きだった。 そこへ向かおうとは思わなかった。 しかし、ある時から、水平線が乱れるようになった。 魔神が出るらしい、と近所の人が耳打ちをする。 魔神、ああ、それはあの美しい世界において邪魔だなぁとしか思えない。 船が転覆したという話を聞いた。 ああ、やはり害悪だ。 はやく魔神がいなくなればいいのに。 国が燃えたという話を聞いた。 ああ、なんと恐ろしい。 はやく魔神がいなくなればいいのに。 後日、父がうちに帰ってきた。 仕事で乗っていた船が転覆し、うちに帰ることが許されたと。 なぜなら船が向かうべき目的地が、騒ぎの間に燃えて壊れてしまったと。 給金は無いがこれでしばらく食えるだろうと父は壊れた銃を翳して笑った。 生きていくには十分だった。 あれから自分は水平線に向かって祈っている。 ありがとう、魔神の存在は祝福だった。 水平線の乱れは、なにものかの歓喜の舞に思えて。 今では自分と父の穏やかな暮らしの象徴になっている。 あの水平線が具体的にはどういった海の名前を持つのかを自分は知らない。 そこで何人が死んでいるかも。 世界の端の命は遠く、認識ができないので、しようがない。 了畳む SS edit
2025/12/23 #盛愚市民こばなし 『支えあう錯覚』 懐かしいなぁと、崩れた家を眺めている。 続きを読む あの日、ここにたくさんの人がぎゅう詰めになって息を押し殺していた。 魔神が出たんだ。 黄色くて、どろどろして、それでも生き物だった。 車の芳香剤に似た体臭が強くて、いまでも自分は車に乗ることができない。 あの、目によく似た空洞を思い出してしまうから。 あれは、3人ほどが殺された後だったから。 家に逃げ込んだみんなはただひたすら魔神が去ることを願い、次の犠牲が自分じゃ無いことを願い、互いに励まし合って日の出の時間を越した。 魔神がいなくなる条件を測っていたが、結局、自分たちには分からなかった。 雨の降った夜に魔神は消え去ったが、同じ雨空は何回も繰り返していた。 懐かしさに駆られて崩れた家を訪れた。 あの時支えあった自分たちに確かに絆ができたと夢を見ていた。 こうして家が壊されても、それを惜しむ人は現れず、自分だけがあの思い出を大切にしていたんだと理解した。 あの場にいた誰の名前も覚えていないのにね。 可笑しいのは自分の方だ。 了畳む SS edit
『不幸は多弾』
愛する家族が死にました。
我が家に『ドアー』があったそうです。
帰宅している間に、ドアーから出現した魔神に殺されました。
父と、母と、弟が死にました。
魔神が死にました。
近所の人が殺してくれたからです。
父と、母と、弟の遺体は葬儀場に運ばれましたが、
魔神の死体はそのままです。
私は殺されかけました。
母の運命の相手?を名乗る男に襲われそうになりました。
魔神の死体がそのままだったので、男はそれに足を引っ掛けて転びました。
その拍子に持っていた包丁が男の腹に刺さりました。
男は母の名をずっと呼んでいました。
なんだか母が気持ち悪く思えてきました。
死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。
弟は私と半分しか血が繋がっていないことがわかりました。
母の運命の相手?との子だったようです。
弟の笑顔が私とまったく違った理由がようやくわかりました。
なんだか弟が気持ち悪く思えてきました。
死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。
魔神の死体はそのままです。
片付ける気力がなくて、私はずっとホテルに泊まっています。
今日、地主さんが怖い人たちを連れて部屋を訪れてきました。
家を手放すつもりならあの死体をどうにかしろと言ってきました。
近所の人がお金を請求しに来ました。
魔神の殺害料だそうです。
父の会社の人がお金を請求しに来ました。
父が会社のお金を着服していたそうです。
なんだか父が気持ち悪く思えてきました。
死んでしまった人に対して、なんてことを考えるんだと私は嫌になりました。
霊媒師さんに声をかけられました。
私の住んでいた家は呪われた土地だそうです。
お金を払えば不幸を退けてくれるそうですが、
魔神の死体は消してはくれないそうなので断りました。
私は嫌になりました。
受験に落ちました。
あれから家にも学校にも行っていないので当たり前でした。
私は嫌になりました。
お金が無くなりました。
私は嫌になりました。
父方の祖父母が、私は嫌になりました。
声をかけたお巡りさんが、私は嫌になりました。
死体を貪っていたカラスが、私は嫌になりました。
私を押し倒した男が、私は嫌になりました。
小学校の時に私を無視した子が、私は嫌になりました。
崖の下に居た魔神が、私は嫌になりました。
ドラッグストアの店員が、私は嫌になりました。
担任の先生が、私は嫌になりました。
市役所の職員が、私は嫌になりました。
青い目の魔神が、私は嫌になりました。
魔神被害者にインタビューする研究者が、私は嫌になりました。
私は嫌になりました。
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